高校数学Ⅰを独学で勉強する際に注意すべきこと

はじめに

教科書や参考書を読む際には、自分を対象として書いてあるか判別することが大切です。しかし、自分でそれを判別するのは、難しいかもしれません。数学が相対的に得意な人にとっても、教科書や問題集だけで勉強することには、そのような危険があります。

どちらかと言えば中学数学が得意だという方へ、数学Ⅰを独学で勉強する際に注意すべきことを書いておきます。

「やらなくてもよい」

数学では、「やらなくてもよい」という言葉には、「やってもよい」という意味も含まれています。

「たすきけ」

因数分解には、「たすきけ」という筆算があります。この筆算は、確かに教科書や問題集に書いてありますが、必要ではありません。

例えば\[3x^2+8x+4=(3x+2)(x+2)\]のように、因数分解を直接やっても構いません。

この等式の正しさは、「たすきけ」ではなく、右辺から左辺への展開によって示されます。

数直線

「$x\gt0$かつ$x\lt5$かつ$-1\leqq x\leqq3$」をまとめると「$0\lt x\leqq3$」になります。

このように複数の不等式を1つにまとめる際に、教科書や問題集では、数直線を使っているかもしれません。

他方、数直線を使わずにまとめることができる人は、使わなくても構いません。

絶対値を含む方程式など

方程式$|x+1|=2x$の実数解を求める際に、次のような場合分けはしなくても構いません。

  • $x\leqq -1$のとき
  • $x\geqq -1$のとき

$2x=|x+1|\geqq0$から$x\geqq 0$と分かります。

したがって、場合を分けることなく絶対値記号を外すことができます。

同様に、不等式$|x+1|\leqq 2x$を解く際も、$-1$を境界にした場合分けは不要です。

この不等式は、$x\lt 0$のときは明らかに成り立ちません。

$x\geqq 0$のときは、そのまま絶対値記号を外すことができます。

三角比の公式のようなもの

三角比について、次のような表を見ると思います。

$\theta$ $30^\circ$ $45^\circ$ $60^\circ$
$\sin\theta$ $\dfrac{1}{2}$ $\dfrac{1}{\sqrt{2}}$ $\dfrac{\sqrt{3}}{2}$
$\cos\theta$ $\dfrac{\sqrt{3}}{2}$ $\dfrac{1}{\sqrt{2}}$ $\dfrac{1}{2}$
$\tan\theta$ $\dfrac{1}{\sqrt{3}}$ $1$ $\sqrt{3}$

中には、これを暗記するようにおっしゃる方もいらっしゃいます。しかし、暗記する必要はありません。

中3数学の「三平方の定理」で、直角二等辺三角形や正三角形を半分にした直角三角形の辺の長さの比を勉強しました(東京書籍しょせき『新しい数学3』p.195など)。この表は、その比を分数で表したものです。

そのため、仮に暗記するとしても、「$1:1:\sqrt{2}$」と「$1:2:\sqrt{3}$」で十分です。

辺の比は、仮に式で覚えるなら、好きな順序で覚えてください。例えば、正三角形を半分にした直角三角形について、「$1:2:\sqrt{3}$」や「$1:\sqrt{3}:2$」など6通りのうちどの順序で覚えても、誰も気にしません。

また、次のような式も、覚えなくても構いません。「こんな式があったような気がする」で十分です。 \[\cos(90^\circ-\theta)=\sin\theta\] \[\tan(90^\circ-\theta)=\dfrac{1}{\tan\theta}\]

$\cos(90^\circ-\theta)=\sin\theta$を公式と呼んでよいのかはわかりません。

文字で置きえなくてもよい

「判別式を$D$とする。」

2次方程式の解の公式の$\sqrt{ }$の中身($b^2-4ac$)には、「判別式」という名前がついています。数学Ⅰの2次方程式の単元で勉強します。

問題集には、「判別式を$D$とする。」と宣言しているものもあります。しかし、「判別式は」など適当な語句の直後に、$D$という記号を使わず、数式を書き始めても構いません。

「判別式」という語は、説明に使います。そのため、歴史用語のように暗記した方がよいと思います。

「$A=x+1$とする。」

中学数学の教科書(東京書籍しょせき『新しい数学3』p.29)では、\[(x+1)^2+7(x+1)+10\]を因数分解する際に、次のようにやるよう指示されます。

$x+1=A$とすると

\[\begin{aligned} &(x+1)^2+7(x+1)+10 \\ =&A^2+7A+10\\ =&(A+2)(A+5)\\ =&\{(x+1)+2\}\{(x+1)+5\}\\ =&(x+3)(x+6) \end{aligned}\]

しかし、次のように直接やっても構いません。

$(x+1)^2+7(x+1)+10=(x+3)(x+6)$

「$t=\cos\theta$とする。」

同じように、三角比をふくむ式を因数分解する際に、文字で置きえなくても構いません。

$0^\circ \leqq \theta \leqq 180^\circ$のとき、方程式$2\cos^2\theta+\cos\theta-1=0$を解きなさい。

このような問題に対し、解説では次のようになっていることがあります。

$t=\cos\theta$とすると、 \[\begin{aligned} &2t^2+t-1=0\\ &(2t-1)(t+1)=0\\ &t=\dfrac{1}{2},-1\\ &\cos\theta =\dfrac{1}{2},-1\\ \end{aligned}\]となる。

次のように書けば、十分です。

\[\begin{aligned} &(与式)\\ \iff&(2\cos\theta -1)(\cos\theta + 1)=0\\ \iff& \cos\theta =\dfrac{1}{2},-1\\ \end{aligned}\]

数学Ⅰを勉強して身に付けるべきこと

必要条件と十分条件

数学Ⅰの中では、特に必要条件十分条件が重要です。これは、数学を勉強する限り、ずっと重要みたいです。

定数の扱い方

数学Ⅰの単元「2次関数」で重要なのは、平方完成や判別式よりも、変数や定数のあつかい方です。

これを練習するのは、2次関数の最大値や最小値を求める問題のうち、$x$の範囲や関数の式に$a$がふくまれるものです。