目次
漸化式の読み方
漸化式が読めないなら、中学数学を復習しましょう。
代入
中学1年生の数学では、文字($x$など)に数を代入することを学びました。次のような問題です。
- $x=2$のとき、$3x-4$の値を求めなさい。
また、中学2年生の数学では、1次関数の式に対し、自分で$x$に値を代入して、$y$の値を出していくことを学びました。
例えば1次関数$y=2x-1$について、次のような表を書いたと思います。
| $x$ | $-2$ | $-1$ | $0$ | $1$ | $2$ |
| $y$ | $-5$ | $-3$ | $-1$ | $1$ | $3$ |
漸化式$a_{n+1}=2a_n-1$に対しても、自分で$n$に値を代入します。数列の場合、通常、$n$は正の整数です。$n$に正の整数をひたすら代入していくことになります。すると、次のような式が無限に出てきます。
- $n=1$のとき、$a_2=2a_1-1$。
- $n=9$のとき、$a_{10}=2a_9-1$。
- $n=234$のとき、$a_{235}=2a_{234}-1$。
$n\geqq 2$とした場合の漸化式$a_{n}=2a_{n-1}-1$は、$n\geqq 1$とした場合の漸化式$a_{n+1}=2a_n-1$と同じものです。次の2つは、同じ式だけが出てくるからです。
- $n\geqq 2$とした場合の漸化式$a_{n}=2a_{n-1}-1$の$n$に、$2$から順に代入したもの。
- $n\geqq 1$とした場合の漸化式$a_{n+1}=2a_{n}-1$の$n$に、$1$から順に代入したもの。
ひとまとまり
中学1年生の数学では、複数の項でできている式をひとまとまりに見ることも、練習しました。次のような問題です。
- $1$個$40$円の消しゴムを$x$個、1本$100$円のボールペンを$y$本買った。合わせて$40x+100y$円になる。
同様に、$a_n -1$をひとまとまりに見て、数列$\{a_n-1\}$を考えることができます。
- $a_1-1$
- $a_2-1$
- $a_{10}-1$
- $a_{200}-1$
等差数列の漸化式
数列$\{a_n\}$が公差$d$の等差数列であるとき、次のようなことが成り立ちます。
- $a_2-a_1=d$
- $a_7-a_6=d$
- $a_{101}-a_{100}=d$
全ての正の整数$n$に対し、$a_{n+1}-a_n=d$となります。
等比数列の漸化式
数列$\{a_n\}$が公比$r$の等差数列であるとき、次のようなことが成り立ちます。
- $a_2=ra_1$
- $a_7=ra_6$
- $a_{101}=ra_{100}$
全ての正の整数$n$に対し、$a_{n+1}=ra_n$となります。
隣接2項間の漸化式(の一部)が「特性方程式」で解けること
$pq\neq 0,p\neq 1$として、漸化式$a_{n+1}=pa_n+q$から一般項を求めるために、等比数列の漸化式に等式変形します。
この際、$q$が邪魔になります。$q$を消しつつ、両辺で同じ形の式にするためには、$x=px+q$を満たす$x$を利用するとよいということになります。
このとき、漸化式は、中学1年生で習う等式変形のルール「両辺から同じものを引いてよい」に従って、次のようにすることができます。
- 漸化式の左辺から$x$を引く。
- 漸化式の右辺から$px+q$を引く。
すると、漸化式は、\[a_{n+1}-x=p(a_n-x)\]となります。
数列$\{a_n-x\}$が公比$p$の等比数列であることが分かります。
名前はどうでもよい
等式$x=px+q$のような式を「特性方程式」と呼ぶそうです。少なくとも高校数学の数列では、名前はどうでもよいと思います。
答案用紙には、次のように書けば十分です。$x$は、方程式$x=px+q$の解を書きます。 \[\begin{aligned} &a_{n+1}=pa_n+q\\ \iff& a_{n+1}-x=pa_n+ q- x=p(a_n-x) \end{aligned}\]
特性方程式は、両辺から何を引けばよいか調べるための方法でしかありません。そのため、「特性方程式を解くと…」などは、答案に書かなくても構いません。
「書かなくてもよい」というのは、「書いてもよい」という意味を含んでいます。
逆の考え方でもよい
逆の考え方でもよいのではないかと思います。
$a_{n+1}=pa_n+q$を等比数列の形にできると楽です。
その形を先に作ると、 \[a_{n+1}-x=p(a_n-x)\] となります。(もちろん、$-x$ではなく、$+x$で構いません。)
式変形して、$a_{n+1}=pa_n+x(1-p)$。
$a_{n+1}=pa_n+q$と同じ式になるようにします。すると、$x(1-p)=q$となり、いわゆる「特性方程式」$x=px+q$が出てきます。
これでいい感じに解けます。
「特性方程式」(隣接2項間)例1
数列$\{a_n\}$の漸化式が$a_{n+1}=2a_n-1$となるとします。
この漸化式は、このままだと扱いにくいはずです。そのため、中学1年生で扱った等式変形のルールを用いて、扱いやすい式に変形します。どうやって式を変形したらよいか、調べなくてはなりません。
こうやったら上手くできる
とりあえず、「こうやったら上手くできる」という計算技法があります。
等式$x=2x-1$が成立するように$x$の値を定めます。
このとき、漸化式は、中学1年生で扱った等式変形のルール「両辺から同じものを引いてよい」に従って、次のようにすることができます。
- 漸化式の左辺から$x$を引く。
- 漸化式の右辺から$2x-1$を引く。
$\begin{array}{ccc} &a_{n+1}&=&2a_n&-1\\ -)&x&=&2x&-1\\ \hline &a_{n+1}-x&=&2(a_n-x) \end{array}$
すると、漸化式は、$a_{n+1}-x=2(a_n-x)$となります。
もちろん、逆の操作を行うと、元の漸化式に戻ります。つまり、\[a_{n+1}=2a_n-1 \iff a_{n+1}-x=2(a_n-x)\]になります。
$x=2x-1$から、$x=1$です。漸化式は、$a_{n+1}-1=2(a_n-1)$でもあるということになります。要するに、両辺から$1$を引いたことになります。
結局、数列$\{a_n-1\}$が公比2の等比数列であることが分かります。
\[a_n-1 = 2^{n-1}(a_1-1) \iff a_n=2^{n-1}(a_1-1)+1\]から、一般項は、$a_n=2^{n-1}(a_1-1)+1$となります。
答案に書かなくてもよい
「書かなくてもよい」というのは、「書いてもよい」という意味を含んでいます。
答案用紙には、次のように書けば十分です。 \[\begin{aligned} &a_{n+1}=2a_n-1\\ \iff& a_{n+1}-1=2a_n-2=2(a_n-1) \end{aligned}\]
これは、等式の両辺から$1$を引いただけです。中学1年生で勉強した等式変形に過ぎません。
「特性方程式」は、「なぜ$1$を引こうと思ったのか」の理由です。
2次方程式を解くとき、因数分解をします。「なぜ因数分解をしようと思ったのか」は、普通は答案に書きません。
2次関数の最大値と最小値を出すとき、平方完成をします。「なぜ平方完成をしようと思ったのか」は、普通は答案に書きません。
漸化式でも、「なぜ1を引こうと思ったのか」は書かなくてもよいということです。
使わなくてもよい
「特性方程式」を使わずとも、漸化式$a_{n+1}=2a_n-1$の両辺から$1$を引くと気付いたなら、それで構いません。
「特性方程式」(隣接2項間)例2
数列$\{a_n\}$の漸化式が$a_{n+1}=4a_n+3^n$となるとします。
そして、$3^{n+1}x=4\cdot 3^n x + 3^n$となるように定めます。
このとき、漸化式は、中学1年生で習う等式変形のルール「両辺から同じものを引いてよい」に従って、次のようにすることができます。
- 漸化式の左辺から$3^{n+1}x$を引く。
- 漸化式の右辺から$4\cdot 3^n x + 3^n$を引く。
すると、漸化式は、\[a_{n+1}-3^{n+1}x=4(a_n-3^nx)\]となります。
$x=-1$から、漸化式は、\[a_{n+1}+3^{n+1}=4(a_n+3^n)\]となります。結局、数列$\{a_n+3^n\}$が公比4の等比数列であることが分かります。
隣接3項間の漸化式(の一部)が「特性方程式」で解けることの証明
$pq\neq 0$として、数列$\{a_n\}$の漸化式が$a_{n+2}=pa_{n+1}+qa_n$となるとします。
等式$x^2=px+q$が成立するように$x$の値を定めます。少なくとも$x\neq p$と分かります。
このとき、漸化式は、中学1年生で習う等式変形のルール「両辺から同じものを引いてよい」に従って、次のようにすることができます。
- 漸化式の左辺から$xa_{n+1}$を引く。
- 漸化式の右辺から$xa_{n+1}$を引く。
すると、漸化式は、\[\begin{aligned} a_{n+2}-xa_{n+1}=&(p-x)a_{n+1}+qa_n\\ =&(p-x)\left(a_{n+1}+\frac{q}{p-x}a_n\right) \end{aligned}\]となります。
\[\begin{aligned} &x^2=px+q\\ \iff&x^2-px=q\\ \iff&x(x-p)=q\\ \iff&-x=\frac{q}{p-x} \end{aligned}\]から、 漸化式は、\[a_{n+2}-xa_{n+1}=(p-x)\left(a_{n+1}-xa_n\right)\]となります。一応確認しておくと、変形後の漸化式は、変形前の漸化式と同じ式です。
ここで、数列$\{a_{n+1}-xa_n\}$が公比$p-x$の等比数列であることが分かります。
方程式$x^2=px+q\Leftrightarrow x^2-px-q=0$の解を$x=s,t$とします。解と係数の関係から、次の3つの式が成り立ちます。 \[\begin{aligned} &s+t=p\\ \iff&s=p-t\\ \iff&t=p-s\\ \end{aligned}\]
結局、次の2つが成り立ちます。
- $x=s$として、数列$\{a_{n+1}-sa_n\}$は、公比$t$の等比数列である。
- $x=t$として、数列$\{a_{n+1}-ta_n\}$は、公比$s$の等比数列である。
逆の考え方でもよい
逆の考え方でもよいのではないかと思います。
漸化式$a_{n+2}=pa_{n+1}+qa_n$について考えます。
両辺で同じ形の式を作ります。次のようにします。 \[a_{n+2}-sa_{n+1}=t(a_{n+1}-sa_n)\]
これを変形すると、 \[a_{n+2}=(s+t)a_{n+1}-sta_n\]
$s+t=p$、$st=-q$となるようにすれば、$s$と$t$を解とする方程式$x^2-px-q=0$が作れます。
この解を使えば、いい感じの等比数列の式ができます。
特性方程式(隣接3項間)
例
数列$\{a_n\}$の漸化式が$a_{n+2}=3a_{n+1}-2a_n$となるとします。
この漸化式は、このままだと扱いにくいはずです。そのため、中学1年生で習う等式変形のルールを用いて、扱いやすい式に変形します。どうやって式を変形したらよいか、調べなくてはなりません。
とりあえず、「こうやったら上手くできる」という計算技法があります。
等式$x^2=3x-2$が成立するように$x$の値を定めます。少なくとも$x\neq 3$と分かります。
このとき、漸化式は、中学1年生で習う等式変形のルール「両辺から同じものを引いてよい」に従って、次のようにすることができます。
- 漸化式の左辺から$xa_{n+1}$を引く。
- 漸化式の右辺から$xa_{n+1}$を引く。
すると、漸化式は、\[\begin{aligned} a_{n+2}-xa_{n+1}=&(3-x)a_{n+1}-2a_n\\ =&(3-x)\left(a_{n+1}-\frac{2}{3-x}a_n\right) \end{aligned}\]となります。
\[\begin{aligned} &x^2-3x+2=0\\ \iff&x(x-3)=-2\\ \iff&x=\frac{2}{3-x} \end{aligned}\]から、 漸化式は、\[a_{n+2}-xa_{n+1}=(3-x)\left(a_{n+1}-xa_n\right)\]となります。
ここで、数列$\{a_{n+1}-xa_n\}$が公比$3-x$の等比数列であることが分かります。
$x=1,2$から、次の2つが成り立ちます。
- 数列$\{a_{n+1}-a_n\}$は、公比$2$の等比数列である。
- 数列$\{a_{n+1}-2a_n\}$は、公比$1$の等比数列である。
補足
普通の「特性方程式」が効かない漸化式
$a_{n+2}=3a_{n+1}-2$のような漸化式は「特性方程式」をやればよいんだと暗記していると、 \[\begin{aligned} &a_{n+1}=2a_n+n\\ \iff&a_{n+1}+(n+1)+1=2(a_n+n+1) \end{aligned}\] のような式変形で、対応が難しくなります。
線形代数学
一応、「特性方程式」というのは、線形代数学の用語のようです1。
$a_{n+2}=3a_{n+1}-2a_n$を行列を用いて表すと、 \[\begin{pmatrix} a_{n+1}\\ a_{n+2} \end{pmatrix}=\begin{pmatrix} 0 & 1 \\ -2 & 3 \end{pmatrix}\begin{pmatrix} a_n\\ a_{n+1} \end{pmatrix}\]となります。
行列$\begin{pmatrix} 0 & 1 \\ -2 & 3 \end{pmatrix}$の特性方程式は、\[x(x-3)+2=x^2-3x+2=0\]となります。
参考文献
- 齋藤正彦 線形代数学 東京図書p.180